びわ湖(琵琶湖)の水の入れ替わり

 
 湖水の入れ替わりについては次の2つの考え方があります。ひとつは、入ってくる水が湖水とは全く混合しないで入れ替わるというもの(トコロテン方式)で、他の一つは入ってくる水と湖水とが完全に混合して、混合した水が流出するというもの(完全混合方式)です。

 トコロテン方式をびわ湖に適用すると、貯水量273億m3に対して年間流出量が50億m3ですから、1年経つと〔50÷273〕の割合で水が入れ替わることになります。この計算でゆくと、すべての湖水が入れ替わるには〔273÷50〕年、つまり5年余りが必要となります。このような考え方は「平均滞留時間」と呼ばれ、いわば、その水域の水の平均寿命です。

 つぎに完全混合方式を理解するために、たとえばコップに満たされた色のついた水を考えましょう。いま、コップの色水の約1/5を捨てて、かわりに同じ量の水を足します。これをよく混ぜて、また1/5を捨てます。この操作を繰り返すと、コップの水の色はだんだん薄くなってゆきますが、いつまでたっても完全な透明にはなりません。びわ湖の場合を式で表せば、Y=100e-0.18tとなります。ここでYは湖水の割合(%)でtは年数です。0.18という数字は年間流出量50億m3を貯水量273億m3で割った値です。この方式でゆくと、1年後には約83%の湖水が残るので17%だけ水が入れ替わることになります。2年後には約70%、3年後には58%の湖水が残り、トコロテン方式ではほぼ入れ替わってしまう5年後でも約40%の湖水が残ることになります。



 それでは現実はどうなっているのでしょうか?

 びわ湖に流入する河川水のようすを調べた結果、季節や時間の違いによって河川水がびわ湖のいろいろな深さに流入するということがわかりました。たとえば、河川水が湖水よりも高温の場合には河川水の方が軽いので、びわ湖の湖面付近に拡がります。それとは逆に、河川水の方が湖水よりも低温であれば、河川水は河口付近で湖水の下に潜り、湖底に沿って湖に流入します。さらに興味深いことは、春から秋にかけてびわ湖水は温度成層をするため、河川水はいったん河口で潜り、その後沖合に動きながら水温躍層の中に貫入してゆきます。

 この様子を模式的に示したのが下の図で、春から初夏にかけて河川水はびわ湖の表層に流入する場合が多く、夏や秋には水温躍層の中に貫入してゆきます。冬には湖底に潜ることが多いのですが、強風や冷却による混合が生じて深さ方向によく混ぜられます。すなわち、びわ湖から出てゆく水が主として表層水だとすれば、春には河川水が表層に流入するので、これでは水はほとんど入れ替わらないことになります。夏から秋にかけて河川水は水温躍層に流入するので、これは「トコロテン方式」に近いものでしょう。冬には深層に流入するものの冷却や強風による鉛直混合が盛んですから、「完全混合方式」に近いと考えられます。


 かなり荒っぽい議論かもしれませんが、現実にトコロテン方式や完全混合方式に近い形で水が循環していることから、びわ湖では15〜20年で水が入れ替わっていると考えてよいでしょう。この年数は人間の世代交替よりも短いので、私たちの努力によって碧いびわ湖を次の世代に取り戻すことが可能なのです。そのための基本的な条件は、びわ湖に入ってくる水の方が湖水よりもきれいであるということは言うまでもありません。

 ただし、水は入れ替わっても底泥は容易には入れ替わらないことも知っておく必要があるでしょう。最近、「湖底高濁度層」と呼ばれる湖底付近の濁りに注目が集まっています。水の入れ替わりばかりでなく物質の入れ替わりを知るためには、湖水中のプランクトンや土壌粒子の振る舞いについても研究を進めていかなくてはなりません。


野洲川河口から北向きの鉛直断面における濁度の分布
各測点間の距離は約900m


このページの内容の一部は、
遠藤修一・奥村康昭ら(2007):野洲川河川水の分散,陸水学雑誌,68:15-27.によっています。

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