琵琶湖の内部波

 
 夏季には表層の暖かい(軽い)水と深層の冷たい(重い)水との間に水温躍層が形成されますが、この不連続面の振動を内部波(内部静振)と呼びます。

 内部波は風によって発達します。すなわち、上層の水が風下に運ばれ、これを補うために下層の水が風上側に移動します。その結果、水温躍層は風下側で下降し、風上側で上昇します。風が吹き続けると、風の力によって水温躍層を傾斜させようとする力と、重力によって元に戻ろうとする力が釣り合って、ある一定以上の傾斜は生まれません。糸でぶら下げた風船に息を吹きかけると、ある傾きで止まるのと同じ理屈です。風が止むと、傾斜した水温躍層はもとの水平位置にもどろうとして動き始めます。こうして振動が発生し、水の粘性や摩擦などによって、しだいに振動は小さくなってゆきます。

 内部波にも基本振動や倍振動があり、琵琶湖では基本振動の内部波の周期は夏季で約2日というゆっくりしたものです。内部波に伴う流れは、水温躍層を境にして表層と深層で逆向きになります。内部波が発達したときには、振幅(水温躍層の上下幅)が10m以上になり、特に沿岸水域では急に冷たい水が湧きあがったりして、水泳客のショック死の原因にもなります。



 びわ湖のような大きくて深い湖では,内部波にもコリオリの力が作用して,複雑な動きとなります。それを模式的に示したのが下の図です。水温躍層の傾斜が,時間とともに湖を反時計回りに伝播するのがわかります。このような旋回性の内部波を「内部ケルビン波」と呼びます。
 
 内部波は、ある地点で水温の連続観測を行うと明瞭に捉えることができます。
下の図は、近江舞子沖で行った各層水温観測の結果ですが、8月では深さ15m(水色)で約2日周期の水温変動が顕著です。内部ケルビン波の周期は季節によって異なり、5〜6月で約3日、7〜9月では約2日、10〜11月で約3日です。このような周期の季節変化は、水温の成層状態の違い(水温躍層の深さ、上層と下層の密度差)によります。

 びわ湖には内部ケルビン波のほかに様々な周期をもつ内部波が存在します。たとえば、内部ポアンカレ波の周期は、春には約18時間ですが、しだいに短くなり夏季に約12時間、秋季には再び約18時間となります。



 内部ケルビン波を観測によって捉えるために、びわ湖沿岸の数か所に自記水温計を設置して連続観測を行ったことがあります。残念ながらいくつかの水温計は紛失しましたが、内部波による典型的な水温変動をとらえることに成功しました。さらに、その変動の位相のずれから、湖を反時計回りに伝播する波であることも確認することができました。

 次の図は、2000年9月下旬に観測された測点1〜5の深さ15mでの水温変動を示したものです。周期約40時間の顕著な水温変動が見られます。また、それらの位相(最高水温が出現する時間)が測点1から5にかけてしだいに遅れていることがわかります。特に、測点1と5ではほぼ逆の位相になっています。これらによって、内部ケルビン波が湖を反時計回りに旋回する波であることがわかります。
 


 湖北の塩津湾には湾独自の内部波(内部静振)が存在します。その周期は季節によって変化しますが、夏季にはほぼ1日です。 湾独自の内部波と北湖全体の内部波(周期約2日)が重なって、塩津湾では複雑な水温や湖流の変化が観測されます。 尾上の漁師さんに聞いた話ですが、湖面に段差のような変化が現れ、不思議な湖流が見られるそうで、これを 「潮間(しおま)」と呼ぶのだそうです。その正体は不明ですが、夏季に出現するようなので、湾の内部波と北湖全体の内部波の相互作用の結果ではないかと推察されます。
 

このページの内容の一部は、
遠藤修一・奥村康昭(1989):びわ湖における連続測流(II)-北湖の流況変動
陸水学雑誌,50:341-350.

および、
遠藤修一・今脇資郎・國司秀明(1979):水温変動からみたびわ湖の内部波の研究
京都大学防災研究所年報,22B-2:601-609.
によっています。
 


©2017 SEndo Kouta

「びわ湖のあれこれ」へもどる

ホームペイジへ