外国でのビックリ体験−その5−


◆ 乾季のトンレサップ湖(カンボジア、2001年)
 今回も引き続き「トンレサップ湖」の体験記である。地図に描かれているトンレサップ湖の湖岸線は乾季の時のものであり、 雨季にはメコン川の水がトンレサップ川を通して湖に逆流し、水位が約8m上昇するので湖面積は5倍以上に拡大する。 したがって雨季のトンレサップ湖は世界で20番目ぐらいの巨大湖へと変貌する。 ただし、湖盆はスープ皿のような形状であるので、湖の水深は至る所でほぼ一定である。

 2000年の夏にこの湖の調査を行ったときには雨季であったので、乾季のこの湖をぜひ訪れてみたいと思っていた。 幸いなことに、金沢大の塚脇氏の厚意によって2001年の5月に湖を訪問する機会を得ることができた。 塚脇氏は、カンボジアがまだ内戦の最中であった頃から、現地での調査を開始し、現在も頻繁に精力的な調査研究を 行っておられる相当のツワモノである。彼にはカンボジアではいろいろとお世話になった。 1月26日に放映された「世界不思議発見」というTV番組にも出演されている。

 2001年5月16日に関西空港からバンコク経由でカンボジアに向かった。 本来なら、バンコクエアウェイズ機でバンコクからシェムリアプに直行する予定であったが、 タイの王室がこの便を借り切ったために、急遽プノンペン経由の飛行機に変更され、 約2時間遅れてシェムリアプに到着した。塚脇氏が空港まで出迎えてくれ、例のバイヨンホテルに 到着した頃はすっかり暗くなっていた。塚脇氏に同行している金沢大の先生方や現地の研究者と 挨拶を交わした後、久しぶりにアンコールビールで喉を潤した。

 翌17日は、朝から遊覧船をチャーターし、トンレサップ湖へと繰り出した。 さすがに乾季だけあって水位は相当低下していて、昨夏には船着き場であった場所は完全に干上がっていた。 マイクロバスでガタガタ道を南に走って、ようやく乗船することができた。さて、それからが大変である。 シェムリアプ川の河口は土砂が堆積し、人の膝ほどの水深であるため、船を沖合に出すのに大変な労力を要した。 浅すぎてスクリューが使用できないので、船長は船から降りて、歩きながら船を手で押し始めた。 河口付近には、水上生活者の住居が建ち並び、小さな船が行き交っているが、どの船も浅瀬では航行に苦戦している。 そんな大人たちの苦労を後目に、子供たちは褐色に濁った湖で水遊びに興じている。 ようやく浅瀬を抜けて、私たちの船は沖合に向かって航走を始めた。幸い、風もなく穏やかな湖面であったので、 船は快調に進む。

 約1時間後に船は湖心部に到着し、さまざまな調査が開始された。主な調査は湖底堆積物の柱状コアの採取である。 約3mの長さのパイプを湖底に突き刺すと、面白いようにパイプが湖泥のなかに潜ってゆく。実に柔らかい底泥である。 私も、持参した温度計やパックテストで水質を測定した。水温28.2℃、電導度57μS/cm、pH8.0であった。 これだけ濁っていても、電導度の値は意外に低い。
 
 調査を終えて、水の中に入ってみると、湖心部だというのに水深は1mほどで、すぐに足が湖底に届く。 確かに水は暖かいが、ときどき足下に冷たい感覚が走る。湖底からの湧水なのか、流入した河川水なのかは定かではない。 裸足で歩いてみると、湖底は実にソフトで、歩を進めるごとに足が埋まりそうであるが、 小さな木の枝や貝殻などの存在が足の裏から伝わってくる。塚脇氏からタバコを渡してもらい、 念願であった「乾季のトンレサップ湖の湖心に立ってタバコを吸う」という体験を実現することができた。 およそ愚かな念願ではあるが、実に感激である。現地の研究者2人と一緒に記念の写真を撮る。 この旅の目的は、いまこうして達成されたのである。

 翌日は、採取した堆積物の分析のお手伝いとして、柱状コアを切断するためのナイフ(ヘラ)洗いに終日励んだ。 その翌日には、いくつかのアンコール遺跡を巡り、夕方には帰途についた。まさに駆け足のような旅ではあったが、 久しぶりに充実した気分であったためか、深夜便でビールを1本飲んだあとは関空に降り立つまで全く記憶がない。 (さらに続く) 2002.1.28 記


(自然像 Vol.41, 2001)


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