外国でのビックリ体験−その9−


タイの巻
 タイ王国(Kingdom of Thailand)を初めて訪れたのは,今から10年前である。同僚のお手伝いとして,チェンマイ大学で開かれた環境教育ワークショップに参加し,チェンマイ近郊の小・中学校の先生たちを対象とした「環境教育トレーニング」で気象教育を担当した。日本の小・中学校での気象教育の紹介と,こどもたちでも簡単に製作・使用することのできる気象観測グッズのデモを行った。たとえば,風車(かざぐるま)と吹き流しを利用した風速・風向の測定や,空き瓶を利用した降水量の観測などであったが,あまりにも面白みがないので,ドライヤーで風船を浮かせる例の”得意技(現地ではEndo Magic)”も披露し,けっこうウケた。ただし,タイの電源は220Vだったので,日本から持参したドライヤーは役に立たず,急遽チェンマイ大学のスタッフにお願いしたところ,美容院から営業用の巨大なドライヤーが届いた。相当に重たかったが風船やピンポン球を浮かせるには十分のパワーであった。

 初めてのチェンマイ訪問では,ドイ・ステープという山の中腹にある寺院で自分の誕生曜日(誕生日ではない)を問われて面食らったことや,ナイトバザールで電卓を使った値引きの駆け引きに夢中になり山のような買い物(しかも安物ばかり)をしたこと,ラーメン(バミー・ナム)の中に入っていた緑色のチリ(ネギのように見えた)にあたって一時間ほど涙とシャックリが止まらなかったこと,など今思えばいろいろなビックリ体験をした。外国にはいつもウィスキーを持参するのだが,タイではいっこうに減らなかった。どうやら当時のシンハーというビールはアルコール度が高く,夕食でこのビールを満喫してホテルに帰ると寝酒なしに眠りにつけたようである。食事が辛いので,ついついビールのピッチが速くなるのも原因である。

 その後,毎年のようにタイを訪問した。チェンマイのほか,バンコク,アユタヤ,パタヤ,カンチャナブリ,南部のハジャイとパッタニ,東部のウドンタニ,北部のメホンソン,チェンライ,メーサイなど各地を訪れることができた。また,カンボジアやインドに行くときにもバンコクに立ち寄るので,さすがの巨大ハブ空港もいまではまったく見るべきところのない空間となってしまった。

 10回以上もタイを訪れているので,タイ語が堪能と思われるかもしれないが,情けないことにほとんど理解していない。タイ語入門の類の本を買って挑戦したこともあるが,あの丸まった文字は奇怪でもあり難解でもあったので,すぐに挫折した。したがって,話せるのは簡単な挨拶と,ビール,ラーメン,灰皿,水などの単語と,「あなたはきれいですね」くらいなものである。一番気に入っているタイ語は「マイペンライ」で,「どういたしまして」という意味のほか「気にするな,ドンマイ」みたいなニュアンスもあるので,自分を鼓舞する意味でもときどき口をつく。ちなみに,東南アジアの文字の多くはインドの梵字(サンスクリット文字)が基本となり,発音は中国語から来ているように思われる。タイ語で「ナム」は水を意味するが,「南無阿弥陀仏」のナムは水のことではないかと思っている。先日,法事の時にお坊さんに尋ねたところ,南無というのは全くの当て字であることが判明し,自説の正しさに意を強くした。

 閑話休題。タイといえば古式マッサージであり,2時間コースがお勧めである。ホテルでは500バーツ(1バーツは約2.5円)とやや高額であるが,町中の安いところなら200バーツ程度で楽しめる。受付をすませると,お湯で足を洗ってくれて,大部屋に案内される。パジャマのようなダブダブの服に着替えて,布団の上にひっくり返ると,そのうちマッサージ師(多くは,おばさん,いやオネーさんと呼ぶべきか)が現れる。ここが運命の分かれ道であり,まさに当たりはずれの典型を見るような気がする。パワフルなおばさんに当たると,筋肉は押しつぶされそうになり,背骨や肋骨の一本くらいはへし折られのではないかと心配になる。逆に,やさしすぎるマッサージ師に当たると,何とも歯がゆく,時としてくすぐったくて笑いを禁じ得ない。「痛いっ!」とか「気持ちいい」とか日本語で叫んだりもがいたりするのが楽しみである。このウワゴトがおばさんとのコミュニケーションにも役に立つ。酒を飲んで行くと,そのうち必ず寝てしまい,あとで「おまえのイビキはうるさかった」などと同行の輩からお説教を食らう。2時間コースでは,最初の30分くらいはひたすら左足を攻められるので,はやく右足に移ってくれないものかとじれったく思ったものだが,何度も通ううちに慣れてしまった。通常のマッサージのほかにフットマッサージやオイルマッサージというものもあり,特にフットマッサージは短時間でもOKなので,帰途の空港などで旅の疲れを癒すのに最適である。

 ミスター・レディーズ・ショウというエンターテインメントも特記すべきであろう。俗に言う「オカマショー」であるが,これが何とも素晴らしい。最初に鑑賞したのはチェンマイのナイトバザールであったが,ここはムエタイと呼ばれるキックボクシングとセットになっていたので,ダンサーも少なく,正直言って落胆した。その後,同じチェンマイのサイモンズという劇場で鑑賞したショウは質・量とも優れ,怪しい色気とユーモアの混在する見事なものであった。極めつけはパタヤでのショウである。これは言葉では言い尽くせないほどの妖艶さと迫力があり,2階席から望遠レンズで写真を撮りまくったことを懐かしく思う。ただ,ショウが終わると,劇場の出口付近にダンサーが待ちかまえて2ショットの写真を催促されるが,へたに話に乗ると高額な「チップ」の請求が待っていることを覚悟しなければならない。(さらに續く) 

2006.1.10記(自然像 Vol.45, 2005)






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