びわ湖(琵琶湖)の熱収支について
 
 水収支が湖への水の出入りを表すように、湖面を通しての熱の出入りを熱収支と呼びます。

 熱の出入りには、大きく分けて、日射量(短波放射)、逆放射(長波放射)、顕熱(熱伝導)、潜熱(蒸発による熱損失)があります。これらの合計が正(プラス)であれば湖全体の水温は上昇し、負(マイナス)だと下降します。日射は可視光線、逆放射は赤外線なので、それぞれ短波放射、長波放射と呼ばれます。温室効果は、長波放射を二酸化炭素などが吸収し、ふたたび地上に向けて放射することにより生じます。

 これらは、あくまで湖面における収支であり、湖内の特定の場所での水温変化は、湖流(移流)、対流、拡散などに支配されるので、ここでは扱いません。

 さて、熱収支の概略を下の図で示します。



 ここで、
  
:日射量または短波放射(太陽高度や雲量に影響される)
  
:逆放射または長波放射(湖面からの赤外放射。温度の4乗に比例する)
  
:顕熱(熱伝導のこと。水温と気温の差、風速などによって決まる)
  
:潜熱(蒸発による熱損失。気化熱のこと。湿度、風速などによって決まる)
です。

 これらの量は気象データや水温データから計算しますが、かなり複雑です。興味のある方は、こちらを参照してください


 2002年から2003年にかけて、びわ湖の近江舞子沖で観測したデータを用いて、熱収支を計算した結果を下図に示します。


 これを見ると、びわ湖では日射量、逆放射、および潜熱が熱収支に深くかかわっていて、顕熱(熱伝導)はあまり影響していないことがわかります。つまり、気温が下がったからといって、直ちに水温が下がるというような単純なことではなく、長波放射や潜熱が水温低下に大きく関係しているのです。

 図中の黒丸が熱収支の合計で、3月から8月までが正で、9月から2月までが負になっています。すなわち、前者が昇温期で後者が降温期です。昇温期に潜熱(蒸発量)が少ないのも特徴的です。

 このことから、びわ湖の貯熱量(平均水温)は2月末から3月初めにかけて最低となり、8月末から9月初めにかけて最高となることがわかります。つまり、気温よりも約1か月遅れて最高・最低水温が出現するというわけです。まさに、「水は温まりにくく、冷めにくい」ですね。

この内容の一部は、
遠藤・奥村ほか(2010):「テレメータブイによるびわ湖の気象・流況・水質の連続観測」
 陸水学雑誌、71、によっています。

©2017 SEndo Kouta

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