琵琶湖の環流

 
 びわ湖の湖流として最も有名です。水温成層期(春〜秋)の表層(水温躍層以浅)に存在します。従来、3つの環流があると言われてきましたが、現在では2つの環流が安定して存在することがわかっています。

 右の図は漂流ブイをレーダによって追跡した観測結果です。
 第一環流は反時計回り(低気圧性)で第二環流は時計回り(高気圧性)の流れです。詳細については、こちらをご覧ください

 環流の特徴は、地球自転の影響を受けた「地衡流」に近い流れであることです。すなわち、第一環流の中心部では周りに比べて低い水温となっていて、第二環流の中心部では相対的に高温となっています。ただし、このような水温差が見られるのは水温躍層付近の深さで、表面や深層の水温には水平的な温度差はほとんど見られません。

 環流の特徴をまとめると,次のようになります。
 
1.成層期(5〜11月)に存在し,冬季には存在しない。
 2.水温躍層よりも浅い深さにのみ存在する。
 3.流速は10〜30cm/s(第一環流では,約2日で一周)。
 4.流れは地衡流に近い。



 環流はいくつかの力の釣り合いによって維持されています。少し難しいかもしれませんが、環流の力学を紹介しておきます。下の図は第一環流と第二環流の力の釣り合いを示したもので、圧力傾度力(P)、コリオリ力(F)、遠心力(C)の3つの力が作用しています。圧力傾度力というのは、圧力の高い場所から低い場所に向かって働く力で、コリオリ力は地球の自転によって生じる力で北半球では流れに対して右直角に作用します。遠心力は日常的にも体験するもので、回転する物体に外向きに作用します。

 第一環流では、圧力傾度力が遠心力とコリオリ力の和となって(P=F+C)、かなり大きな値となります。つまり流速が大きく、はっきりとした水温分布が現れます。一方、第二環流ではP=F-Cなので、あまり目立った水温構造は見られません。この力学は天気図にみられる低気圧や高気圧にも当てはまります。1気圧は1013 hPaですが、高気圧はいくら発達しても1050 hPa程度です。それに対して低気圧や台風が900 hPa以下にまで発達するのは、コリオリ力と遠心力が同じ向きに作用し圧力傾度を大きくできるためです。

 環流の存在によって、びわ湖の水はよくかき混ぜられていると考えられます。たとえば北湖の電気伝導度を測定してみると場所による違いがほとんど見られません。逆に言えば、もしもびわ湖のある場所が汚染されたとすると、その汚染は環流によってびわ湖中に拡がってゆくことになります。

 環流がなぜ生じるかについては、いくつかのメカニズムが考えられてきましたが、最も重要な原動力は風の渦度(うずど)であることがわかりました。詳しいことは、「びわ湖の風」を読んで下さい。最近のビワコダスの観測や、京大の秋友教授の研究などから、びわ湖特有の風によって環流が形成されることがほぼ確実になりました。下図は、それを模式的に表わしたものです。


このページの主な内容は、
Endoh, S. & Okumura, Y. (1993): Gyre system in Lake Biwa derived from recent current measurements,
Jpn. J. Limnol
., 54 : 191-197.
および
びわ湖の環流に関する一考察:日本陸水学会第73回大会(札幌)、2008年10月 /要旨//プレゼン/
によっています。


©2020 SEndo Kouta

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