びわ湖(琵琶湖)の水の溶存酸素について
 溶存酸素dissolved oxygen)とは、水中に溶けている酸素のことですが、酸素の溶解度は二酸化炭素などに比べるとかなり低いことをまず知っておく必要があります。また、溶解度は水温によって異なり、冷たい水のほうがよく酸素を溶かします。湖水中での酸素濃度の変化は、大気からの供給、光合成、呼吸、水の動き(移流や拡散)に支配されます。また、北湖のように深い湖では水温躍層の形成によって、表層の酸素が深層に移動しにくい状況が生じます。
 最近、秋から冬にかけて北湖の湖底付近で低酸素状態が続いています。これは、深層では光合成が行われず、生物呼吸によって酸素が消費される一方なのに加えて、水温躍層が壁となって表層からの酸素の補給が断たれるためです。湖底付近が無酸素になると、それまで粒子として存在していたマンガンや鉄が水に溶け、それらに吸着されていたリン酸イオンも湖水に溶けだします。すなわち、さらなる富栄養化の原因が発生するわけです。

 さて、このような溶存酸素濃度の減少がどのように起こっているのかを確かめるために、私たちは調査を行いました。

1.毎月一回の定期観測
 毎月中旬にびわ湖の定期観測を継続しました。測点配置は年によって多少異なりますが、近江舞子沖と今津沖の測点は毎年共通です。調査項目は水温、電気伝導度、濁度、溶存酸素濃度、透明度、クロロフィル、pHの鉛直分布のほか、透明度、気温・気圧・風向風速です。溶存酸素の測定はガルバニ電極センサーによって行いました。

 下の図は、今津沖の水深約90mの地点での溶存酸素飽和度の季節変化を示したものです。毎年、夏から秋・冬にかけて深層で酸素濃度の低下が観測されています。2月ごろになると全層循環によってほぼ一様な酸素濃度分布となります。春季や夏季には表層で盛んな光合成に伴う酸素の過飽和も見られます。



2.自記計による連続観測
 近江舞子沖(水深約75m)と今津沖(水深約90m)の湖底付近に自記計を設置して、10分ごとに酸素濃度と水温を連続して測定しました。これを見ると、明らかに今津沖で酸素濃度が大きく低下しているのがわかります。特に2008年や2009年の秋にはほとんど無酸素状態に近くなっています。一方、近江舞子沖での溶存酸素低下は飽和度30%程度にとどまっています。この違いは場所や水深の差なのでしょうが、何か決定的な環境の相違がないか少し検討してみました。



3.カワウの影響
 竹生島や伊崎にカワウの集落(コロニー)が形成されて、深刻な森林被害が報告されています。カワウの食欲は旺盛で、水中に潜ってアユなどを捕獲しています。ある漁師さんは、「わしらの漁獲量が減ったのは間違いなくカワウのせいで、あいつらには勝てん」と言っていました。
 
 さて、カワウの採食量は1羽あたり300〜500グラム/日と言われています。そして糞の量は採食量の約40%、すなわち120〜200グラム/日で、これは乾燥重量に換算すると30〜50グラム/日となります。よく言われているのは、カワウが魚を獲って竹生島で糞をするので、物質(栄養塩も含めて)が水から陸に移動するために、びわ湖の浄化に寄与しているのではないか、ということです。ところが、実際にはカワウの大群が今津沖の湖上あたりでよく観察されることから、少なからず湖内に糞をまき散らしている可能性があります。また、竹生島の糞が降雨によって湖に流出し、第一環流に乗って今津沖に運ばれているとも考えられます。

 カワウの糞には、その重量の約15%の窒素酸化物と約10%のリン化合物が含まれていることが知られています。これにカワウの数の5万羽を掛け合わせると、相当なチッソ・リンが湖に供給されていることになります。概算ですが、全窒素0.5トン/日、全リン0.2トン/日となり、特にリンについては河川から供給される量の約1/4にも達します。これはリン制限の北湖への負荷としては相当な供給量です。これらを栄養分として植物プランクトンが増殖したり、糞のまま湖底に沈降したりすることによって、湖底付近では有機物の分解による酸素消費が進むという可能性は否定できません。

 もちろん、これはまだ仮説に過ぎませんが、カワウが竹生島から去った2010年以降には今津沖での溶存酸素の著しい低下が見られなくなったことは、この説の妥当性を示すものではないでしょうか?



この内容の一部については、日本陸水学会での発表、
「びわ湖の水温と溶存酸素濃度の変動特性(2)」:2009年 /要旨//プレゼン/
「びわ湖の水温と溶存酸素濃度の変動特性(3)」:2010年 /要旨//プレゼン/
「びわ湖の水温と溶存酸素濃度の変動特性(4)」:2011年 /要旨//プレゼン/
に関連した報告があります。


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