びわ湖(琵琶湖)の湖流について

 
 
 湖水の流動を一般に「湖流」と呼びます。海流と比較すれば弱い流れ(10cm/秒程度)ですが、場所、深さ、季節、気象条件などの違いによって湖流は極めて複雑です。湖流の存在によって、水質や生物分布などが大きく影響を受けます。湖流を引き起こす主な力は風、熱、流入・流出で、湖流の維持・消滅には地球の重力、コリオリ力、粘性・摩擦力がかかわっています。

 びわ湖で見られる湖流として、「環流」、「内部波」、「吹送流」、「慣性円(慣性振動)」、「静振」、「密度流」、「沿岸ジェット流」、「収束・発散」などを挙げることができます。このうち、内部波、静振、慣性円は周期的な流れで、それ以外は非周期的な流れです。それぞれの流れの詳細については、解説ページをご覧ください。これらの流れの出現する水域、深さ、季節についてまとめてみたのが下の表です。

    流れの種類
水域
吹送流 環流 内部波 慣性円
沿岸水域
× ×
沖合 表層
× ×
躍層 ×
深層 ×
× ×
◎:卓越する  ▲:認められる  ×:存在しない
ここで、「夏」は5〜11月、「冬」は12月〜4月。
 遠藤・奥村:1989、陸水学雑誌による)

 現実に観測される湖流は、これらの重ねあわせや相互作用の結果なので、得られた測流記録の解析はかなり難しいです。特に夏季の表層では、吹送流、環流、内部波、慣性円がすべて卓越し、生物学者などが称する「停滞期」どころか、実に活発な「水平循環期」となっていることがわかります。

 吹送流wind-driven current)とは、風によって形成される流れで、主に表層で顕著ですが、成層期には表層水の移動を補償するために間接的に深層水も駆動します。環流の原因の一つも風ですが、ここでは風によって一時的につくられる湖流を吹送流と呼ぶことにします。一般に、風速の2〜3%の大きさの湖流が生じると言われています。南湖では、風の吹送によって水平循環流が形成されますが、これは一時的な湖流なので、北湖の「環流」とは区別する必要があります。北湖東岸では、岸に直角な風(北西風)によって、底層付近に岸から沖に向かう流れ(底層離岸流)が観測されます。

 海洋では吹送流としてエクマン流が有名ですが、びわ湖でもその存在が確認されました。下図は、2002年3月20日に北湖の中央部においてADCP(各層流速計)により得られた流向・流速を、表層(5m)より深さ2mごとにプロットしたものです。深さが増すにつれて流速がだんだん小さくなり、流向は時計回りに変化しています。
 

ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)によって得られた各層の流速ベクトル。
縦軸と横軸の数字の単位はcm/sec。2002年3月20日。



 慣性円(慣性振動:
inertial oscillation)は、風などによって形成された湖流が、風がやんだ後にコリオリ力のみによって流向が時間とともに時計回りに変化する現象です。フーコーの振り子と全く同じ原理で、びわ湖では周期約21時間で流れの流跡が大きな円を描きます。海洋では慣性円の存在がよく知られていますが、びわ湖でも見られるのはやはりびわ湖の抜群の大きさのためです。夏季の北湖では、表層と深層の境界である水温躍層付近で顕著に慣性円が観測されます。


彦根沖で観測された慣性円。流速計の記録より1時間ごとに流跡をプロットしたものです。
1977年4月4日〜7日。
遠藤ら:1982、水温の研究より)
 
 流入・流出に伴う湖流としては、びわ湖に流入する河川の影響が考えられますが、よほどの大雨に伴う流量でない限り、これらの影響は環流などの運動量に比べると微々たるものです。流出としては瀬田川洗堰の放流がありますが、これも北湖の湖流へはほとんど影響を及ぼしません。ただ、琵琶湖大橋付近では湖幅が狭くて浅いために、洗堰の全開放流(約600m3/秒)時には、5〜10cm/秒の南流が形成され、水草などが絡みついて漁具のエリ(魚入)が傾くなどの被害が報告されています。

 
 湖流を測定するのは、防水や腐食防止などの問題に加え、測器の設置・係留、荒天、漁業などの問題があるために、陸上で風を測るよりもはるかに困難です。湖流の測定には次のような方法があります。

@漂流物の追跡(ラグランジュ的測流)
 漂流物:漂流ビン、漂流板漂流布、電波ブイ、レーダブイ、GPS内蔵ブイ
 追跡方法:船、トランシット、電波、レーダ、GPS,気球、飛行機、人工衛星

A流速計による連続測流(オイラー的測流)
 流速計の種類:プロペラ式、ローター式、超音波式、電磁式、ケーブル式(直読式)、
  記録内蔵型(磁気テープやメモリ)、ADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)

B水温・水質の分布から流れを推定する方法(間接測流)
 環流(水温分布から密度分布を求め,地衡流を計算)、
 河川水の分散、密度流、湧昇・沈降(水温、電気伝導度、濁度、pHなどから流れを推定)

 

©2020 SEndo Kouta

「びわ湖のあれこれ」へもどる

ホームペイジへ